ポケモン騒動

「パニック障害の仕組み」はパニック障害という立場からパニックをかんがえてあります。今度はポケモン騒動を例にパニックについて考えてみます。

 人間の情動評価は感覚器から視床、感覚野を経て、扁桃体に来た情報についてなされることがわかっています。しかし神経生物学的に、視床から扁桃体への視床扁桃体路の存在が知られています。この神経路は下等なほ乳類では、感覚野の発達が未熟なために、情動判断に重要な経路です。ほとんどの情動判断はこの経路を来た刺激の情報からなされます。それは個体を危険から守のに、大きな役割を果たしています。しかし人間や類人猿ではこの経路からの刺激情報から情動反応を起こすことはほとんど無いと考えています。その理由は追って明らかになりますが、とても大きな強い刺激や、特殊な条件下では、この視床ー扁桃体路の存在が大きな役割を果たすときが有ります。

 その例がパニックを起こしたときの情動反応です。視床ー扁桃体路を通って来た刺激が扁桃体で情動評価されて、強い恐怖を生じたとき、その刺激は前頭前野に送られて、前頭葉の思考反応を抑えてしまい、外見上パニックの状態を生じます。しかし、前頭葉が成熟して、前頭葉により扁桃体の情動反応を調節する訓練のできている人は(場合によっては意識にも登らないで、反射的に扁桃体を抑制する)扁桃体に生じた強い恐怖を抑えることができます。これは大人の情動調節です。子供ではこの調節作用が無いか弱いため、恐怖によるパニックを起こし易いと考えられます。情動評価で恐怖を生じる生得的な物として、視覚については光の強さです。大まかな形は後天的な物だと思います。音は強さだと思います。臭いと味とは物質の種類と強さの両方だろうと思っています。痛みは強さだと思います。後天的な、学習で得た物は、その周辺記憶として、海馬の記憶が関与しています。それ故に、周辺記憶を別なもので置き換えることにより、視床ー扁桃体路で来た刺激に情動反応をしなくてもすむようになります。扁桃体での記憶は同一でも、周辺記憶を変えることにより別な形の条件反射にする事ができます。そのためには情動経験が大切になります。それでも同一刺激で、同一周辺記憶を伴うものでしたら、やはり恐怖を生じる情動反応を起こします。それがflush backのメカニズムだと思います。

 山形県の中学生の女教師刺殺事件では、何がその中学生をパニックにしたのか私には分かりませんが、ほぼ間違いなくこの視床ー扁桃体路による恐怖によるものであると考えています。ポケモン事件があります。これはこの視床ー扁桃体路によるものの可能性を強く伺わせます。検査された子供の中に光刺激賦活脳波で反応がない(視覚野が関与していない)子供が13人いました。この子ども達は強い光刺激を視床ー扁桃体路から繰り返し(五回)受けたため、恐怖反応を生じたのだと思います。

 

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