脳の構造と心の構造
心は脳の中にあることを疑う人はもういないと思います。特に人間の脳と心との関係を認知科学は追究してきています。それらの研究が現在までに私たちにもたらした結果を総合した物をここに示します。それによりますと間違いなく、脳の外部から加わった刺激に脳全体が関係して反応を出します。しかしその出す反応の本質を決めるのは、脳の構造に由来していることがわかってきています。そこで心という観点から、脳の構造を考えてみます。
この図は、脳の正中を前後に切った断面の模式図です。帯状回の一部はその灰白質を取り除いて、これからの議論の中心になる海馬や扁桃体の位置がわかるようにしてあります。前頭葉は思考や判断の中心的な役割を担っています。運動領野は意識的な運動を対応する筋肉に指令する役割、体知覚野は体の対応する部位の知覚情報を受け取る役割、視覚野は目からの視覚情報を受ける役割、その他の大脳新皮質は情報の処理や記憶情報が蓄えられていると考えられています。小脳は意識的な、無意識的な運動の際の筋肉同士の強調を取るために機能をすると考えられています。脳幹は動物としての生命現象を調節しています。自律神経の中枢と言えます。帯状回から海馬、扁桃体などを総合して、大脳辺縁系と呼びます。いわゆる本能や、情動に関する中枢です。
心という観点から脳の構造をみてみますと、あらゆる知覚情報は各感覚器でインパルスに変換されて、知覚神経を経て、相当する近く両夜に投射されます。その各知覚領野で処理された知覚情報はその後、前頭葉と扁桃体、海馬に送られます。前頭葉では知覚情報の認知が行われます。扁桃体では情動を生じます。海馬を介して知覚情報の記憶がなされます。解剖的な見地からは、前頭葉と扁桃体、海馬は脳のあらゆる知覚野と神経連絡があります。これらの事実と脳の局所の破壊実験、FMNRやPET、脳磁気からの情報を総合しますと、前頭葉は意識的な情報処理、扁桃体は恐怖や喜びなどの情動に関する情報処理、中隔・海馬は記憶と情動の抑制に関係しています。つまり脳の構造を考えるなら、人には二つの心がある、一つは意識的な、判断可能な心、それは前頭葉を中心として存在し、もう一つは意識に上らない、情動のこころ、それは扁桃体を中心として存在しています。この二つの脳はお互いに独立して機能をしていますが、互いになめらかに移行してして、反応を示すために、私たちはこの二つの心の存在を意識することはありません。
人の心を理解するには、基本的には、意識に上る心と、情動の心とを考えればよいのです。つまり前頭葉を中心とした意識に上る心と、扁桃体とを中心とした大脳辺縁系、情動の心です。ところが年齢によって、脳の成熟度が異なっていることがわかっています。それは前頭葉の機能は思春期を過ぎないと成熟しない、機能として大人と同じように機能をしないという事実です。
潜在意識と顕在意識と言う考え方があります。人間の主観的な意識はどのようにしてできるのか、大きな議論を呼んでいます。しかしいずれにしても主観的な知覚や行動の決定は前頭葉でなされていることがわかっています。それに対して情動は直接的には意識に上りません。情動が体に表出された結果を意識が感じ取って、過去の経験と比較して自分の情動を認知します。それを感情と言うべきなのでしょう。それ以外に習慣のように意識はしないが、反射的に行ってしまう行動があります。これを手続きの脳、手続きの心と呼ぶことにします。これは前頭葉連合野で行われているようです。一応潜在意識に属しますが、意志でいくらでも変更をすることができます。