子供のしつけとストレス

 小犬を飼い、しつけをした人ですと経験をすることです。主人が「おすわり」を厳しくしつけますと、小犬は主人の「おすわり」の命令には良く従います。奥さんや子供の「おすわり」の命令には従わない場合が多いです。ところが小犬に「おすわり」ができたら、飼い主が喜ぶと言う状況、小犬にとっても楽しいと言う状態で教えた場合、小犬は奥さんや家族の命令できちんとおすわりをします。

 しつけにこのような差が出るは何故でしょうか?犬は女の人を馬鹿にしてかかると言う説明を聞いたことがあります。しかし後の犬の例ではそのようなことはありません。それは主人命ずるの「おすわり」には、その言葉に伴う恐怖を避けるためにおすわりをする動機になっていると考えられます。ところが奥さんには恐怖がありません。そのため、奥さんの「おすわり」では、小犬はおすわりをする必要がないという事実です。

 これと同様の事が、家庭内、小学校、中学校で行なわれているように思われます。例えば子供がだらだらとテレビを見続けています。親が叱ります。そこで子供はテレビを見ることを止めます。これを繰り返す事で、時間が来たらテレビを見ることを止めると言うことの、しつけが成立します。親は子供にしつけをしたと考え安心しているでしょうが、子供はテレビを見ている間中、絶えず緊張して終わりの時間が来るのを待っています。そして、親の監視の無いときには、しつけに従わないで、平気で何時間でもテレビを見ることになります。一見、テレビを見る時間のしつけができたように見えますが、その実、子供の時間が来たらテレビを消す行動は、親からの恐怖を避けるための行動だったとなります。

 学校に関しては、校則がわかりやすいと思います。子供達は先生に叱られたくないから、校則を守っています。先生から叱られることのない場合には子供達は校則を無視することが多いです。また、生活指導に熱心な先生がいます。親からみれば、子供をしっかりしつけてくれる良い先生です。しかしこのような評価を受ける先生は、結果を早く、明確に出す必要が有ります。そのためには体罰などの恐怖を用いて子供を指導します。その結果、見かけ上学校内の秩序は整然としていますが、その陰で子供達の登校拒否やいじめや非行が増えるという事実が有ります。

 子供の刺激に対する反応の仕方は、とても動物に近いです。恐怖を背景として子供に学習をさせた時、「子供は恐怖を避けるための学習」という行動を取ります。その結果、確かに学習は成立します。大きな恐怖を与えると、学習成果は早く確実に出ます。が、恐怖が無くなると、学習結果は消失します。学習結果を維持するためには、子供に恐怖を与え続けなければなりません。次の学習に進むためには新たな恐怖を与えなければ、まず次の学習が行なわれません。

 「しつけは幼いときから厳しくつけた方が良い」という意見が有ります。これは厳しくと言う意味が、子供に恐怖を与えるまでしてしつけると言う意味でしたら、今までの議論から、子供は見かけ上しつけを受け入れるだけで、親の知らないところではとんでもないことをしでかす可能性を意味しています。それに加えて、子供は幼いときから、恐怖により、緊張を続けなければなりません。子供はその圧迫に押しつぶされて、自分を見失ってしまいます。そのことが、親としてはしっかり子供をしつけた積もりなのに、親の知らない間に、親の知らないところで、親のしつけの真反対の事、非行の行動に走る一要因になっていると考えられます。それに対して、厳しくの意味が、恐怖を供なわわないで、親や先生の愛情から、子供も親も先生も喜べる状態で子供がしつけられるのなら、それは大変に意味がある学習になると思われます。

 現在の子供社会もストレス社会と言われています。それは必ずしも受験競争だけが原因では無いと思います。しつけ、生活指導と言う名目で子供に加えられる恐怖も、現在の子供のストレスの原因の大きな要素になっているのではないでしょうか?

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