山作と猟師と狐

 昔々、ある国に山作という農夫が住んでいました。山作は心の優しい、まじめな男でした。あるよく晴れた秋の日のことでした。豊作だった稲の取入れも終わり、山作はこれからやって来る寒い冬の準備に追われていました。ぼつぼつ茸が出る頃になっていたので、山作は篭をしょって山へ出かけました。

 山作が茸を取りながら山の中に入って行っていたときのことでした。山作は悲しそうな鳴き声を聞いたので、放っては置けないと思い、その声の方へ進んで行きました。鳴き声をあげていたのは、罠にかかった狐でした。狐は山作を見るなり言いました。

「どうかお助けください。私には六匹の子供がいます。私が殺されると、私の子供も皆飢死んでしまいます。どうか哀れな私の子供のために、私をお助けください。」

「そうか、可愛そうになあ。助けてあげたいところだが、私がこの罠を仕掛けたわけではないから、私には勝手なことはできないんだ。私がこの罠をはずしたら、きっと猟師が私を怒るだろう。お前が自分で猟師に頼むしかないだろう。」

「今誰も見ていないから、この罠をはずしても、あなたには何の迷惑もかからないでしょう。どうか、お願いします。助けてください。きっとご迷惑はかけません。」

狐は何度も何度も頭を下げて、山作に頼みました。山作もこの狐のことが可愛そうになりました。山作のこの様子を見て取った狐がいいました。

「お礼に茸をたくさんさ仕上げます。どうか助けてください。お願いします。」

山作は狐のこの言葉に負けてしまいました。山作は罠をはずして、狐を逃がしてやりました。狐は何度も何度もお礼を言って潅木の茂みの中に消えて行きました。

 ちょうどそこへ猟師の権兵衛がやってきました。権兵衛は罠とその側に立っていた山作を見て言いました。

「おい、おまえさん、罠にかかっていた狐を逃がしたな。なんてえことをしてくれたんだ。俺の仕掛けた罠だ。どうしてくれるんだい?お前さんが勝手に逃がす権利があるんかい?」

「本当に申し訳ない。私が勝手な真似をしました。どうかお許しください。あの狐には六匹の子どもがいると聞いたので、親を殺しては残った子どもが不敏だと思いまして。」

「あんた、狐の言うことを信じるのかい?狐なんか、いつでも適当なことばかり言っているのだからね。」

「でも、もし本当だったら、狐の子ども達が可愛そうじゃあないですか?」

「俺も、動物を捕まえて、それで生活をしているんでねえ。狐の皮はいい値段で売れるからねえ。」

「それじゃあ、お詫びに、お米を一俵あげますから、あの狐を逃がしてしまったことをお許しください。」

猟師はお米一俵と聞いて、にやっと笑って言いました。

「よかろう。お米一俵で、狐を逃がしたことを水に流そう。必ず持って来るんだぞ。」

 山作はすぐに自分の家に帰ると、お米を一俵肩にかついで、猟師の家にやってきました。お米を受け取った猟師はまじめくさった顔をして言いました。

「今度は勝手な真似はしないで欲しいなあ。ともかく、今回はこれで手を打つから。」

 山作は可愛そうな狐を助けることができて、猟師との問題も無事解決して、ほっとしました。山作はすがすがしい気持ちで家に帰りました。

 翌朝のことでした。夜中からの激しい風が雨戸をがたがた鳴らしていました。山作はその音で早くから目をさましてしまいました。しかしそれだけでは有りませんでした。家の外で何か動物が仕切りと動き回っていまわっているようでした。何かしきりと小さな声で話している声が聞こえました。はじめ山作はぞうっとしました。何事だろうかと思いました。山作はしばらく聞き耳を立てていました。それ以上何も起こらなかったので、勇気をふり起こして、そおっと小さく雨戸を開けて外の様子を見てみました。そこには狐が数匹、しきりと茸を運んでいました。

 山作は息を潜めてそれを見ていました。やがて狐達はたくさんの茸を運び終わると、山の方へ走り去っていきました。

「きのう助けた狐が、お礼に約束の茸を持ってきたんだなあ。狐って、本当は優しい動物なんだなあ。きのうは本当に良いことをしたもんだ。」

山作はそう独り言を言うと、雨戸を開けて、狐の運んで来た茸を家の中へ運び込みました。とてもたくなんな茸でしたから、山作はその茸を町へ持って行って、売りました。おかげで、山作はお米一俵分以上のお金を稼ぐことができました。

 

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