草原のひまわり

 春になりました。私は胸いっぱいの希望を持って、この広い草原に生まれました。ところが生まれたその時から、私は厳しい現実と戦わなくてはなりませんでした。周りの草花からの絶え間無い締め付けがありました。それに周囲の全てを他の草花に覆われているため、私の所は闇夜のように暗かったのです。私の生きる場所は地獄の様でした。

 この世に生を授かったからには、私はなんとしても生きなければなりません。まず生きること。私にはそれだけで精いっぱいでした。とても私なりの生き方をするなどということとは、私の生活からは縁遠いものでした。

 私は苦しかった。私は辛かった。何でこんな所に生まれなければならなかったのだろうと考えました。私はこの世に私を送りだした親を憎みました。もし神様がいたなら、神様さえ憎んでやろうと思いました。だからといって、ここから逃げ出す訳にはいきません。生まれなおす訳にも行きません。私はもやしのような細くて、か弱い体を奮い立たせて、周囲の草花と戦い、自分を獲得しようとしました。それは正に死と隣合わせの辛くて、苦しい戦いでした。

 多勢に無勢、相手は頑強な草花、私は触れただけでも折れてしまいそうな、か弱い苗でしたから、勝てるはずが有りませんでした。戦いの結果は、私にはひどい心の傷と絶望が残っただけでした。残るのは死を選択することだけでしたが、私にはこの選択は悔しくてすぐには選べませんでした。苦しくても、苦しくても、無益な戦いを続けながら、細々と生きていました。

 このような戦いの結果、私には捨身の作戦を考えることができました。それは周囲に迎合することでした。もちろん本気で迎合するのでは有りません。あくまでも私がひまわりとして生き抜くための、見かけ上迎合でした。最後にはひまわりとして生き抜くための作戦でした。この作戦は、今までの戦いよりも苦しくて、辛い戦いになることは予想されました。

「はいはい、承知しました。そうしましょう。その代わりほんの短い間だけでよろしいですから、そこを寄って下さいませんか?」

と、私は遜って周りの草花の要求に答えました。そのお礼として、ほんの短い間だけでしたが、太陽の光を浴びさせて貰いました。

「今に見てなさい。必ず勝ってみせるから。今は死んだ積もりになって、耐えて耐えてみせるわ。」

と自分に言い聞かせました。その短い時間の間に、太陽の光を浴びている間に、私は太陽からの恵みを目いっぱい体に貯めました。貯めて、貯めて、貯め続けました。相手の手の内に有るように見せかけて、相手を私の手の内において、私は反撃の機会を狙っていました。その時まで、取り込んだ太陽の恵みで自分の体を整え、背を伸ばして、ひそかに準備だけは怠りませんでした。次第に私は周囲の草花に引けを取らないようになりました。しかし周囲の草花は、私が彼らの手の中にあると信じていたのでしょう。その内私が反撃に出ることなど、全く疑ってはいませんでした。

 私が周囲の草花より強く、大きくなったとき、私は一気に反撃に出ました。私は目いっぱい私の葉を広げました。他の草花に遠慮しなくても、太陽の恵みを取り込むことができるようになりました。私はぐんぐん大きくなり、周囲の草花を問題にしなくなりました。この時点で私は戦いに勝ったことは明かでした。周囲の草花は私の勢いに負けて、弱って行きました。 

 私は戦いに勝ちました。私にとって戦いとは、それに勝てば良いと言うものでは有りませんでした。相手を倒すのが目的では無くて、自分が生きるための戦いでした。無用な戦いはしないし、私が打ち負かした相手にも私と同じ権利を与えるものでした。それは自分が生きるための戦いの中で感じ取った私の生き方でした。私は吹く風に合わせて体を大きく揺らしました。そうすることによって、豊かな太陽の恵みを私の周りの草花に、今まで戦っていた相手に分けて上げました。

 私は太陽のような大きな花を咲かせました。私の花は太陽のように輝きました。

「チョウチョさん、いらっしゃい。蜂さん、いらっしゃい。私の作った密の味はいかがですか?今私は最高に幸せ。これが私の人生。これが私の勝ち取った人生なのです。」

私は大空に向かって続けました。

「お父さん、お母さん、私を生んでくれて有難う。初めは二人を憎んだけれど、今は二人に感謝しています。だって、こんなに幸せなんですから。本当に、有難う。お父さん、お母さん。」

私は胸を張って、大輪の私の花を太陽に向けて立っていました。

 

表紙へ