三人の農夫   須藤 透留
 
 昔、ある国に農夫が住んでいました。この農夫はとても貧しかったのですが、とても働き者でした。朝から晩まで、一生懸命働き続けました。しかしどうしても貧しさから抜け出すことは出来ませんでした。
 神様は空の上から、この農夫の働きぶりを見ていらっしゃいました。この農夫を大変可愛そうに思われました。そこである日、神様は乞食に姿を変えて、この農夫が畑を耕しているところへやってきました。
「旦那様。お願いでやす。ひもじくて死にそうでやす。何か恵んで下され。」
乞食は言いました。農夫はちょっと手を休めて乞食を見て、首を振って言いました。
「ねえよ、ねえよ。わしの所には何もねえよ。わしの食う物すらねえよ。」
農夫は又、黙々と畑を耕し始めました。乞食は悲しそうな顔をして、よたよたとふらつく足取りで去っていきました。
 この国に別の働き者の農夫が住んでいました。この農夫も朝から晩まで働き続けましたが、どうしても貧しさから抜け出すことが出来ませんでした。
 神様は空の上から、この農夫の働きぶりも見ていらっしゃいました。この農夫のことも大変可愛そうに思われました。そこである日、神様は乞食に姿を変えて、この農夫が畑を耕しているところにやってきました。
「旦那様。お願いでやす。ひもじくて死にそうでやす。何か恵んで下され。」
乞食は言いました。農夫は手を止めて乞食を見つめました。空腹らしくて、ふらふらしていました。この乞食を哀れに思った農夫は、持っていた昼食用のおにぎりを出してきて、一つ乞食に与えました。乞食はそのおにぎりをおいしそうに食べ終わると、何度何度もこの農夫にお礼を言って、歩いていってしまいました。
 その夜のことでした。農夫が寝ようとしていたところ、入り口の戸をとんとんとたたく者がありました。農夫が戸を開けてみるとそこには神様が立っていました。
「私は今日助けてもらった乞食じゃ。お礼にお前の欲しい物を一つだけやろう。何か欲しい物を言いなさい。」
神様は言いました。農夫は何のことだか良く解りませんでしたが、普段からお金が欲しい、お金が欲しい、と思っていましたから、とっさに
「お金が沢山欲しい」
と言ってしまいました。神様は懐から小判を十枚取り出すと、それを農夫の手に握らせて、闇の中に消えていきました。
 農夫は大喜びでした。翌朝、農夫は畑に出ないで、町へ出かけました。町で欲しい物を沢山買いました。農夫はいろいろと贅沢を始めました。その為に村の人たちはこの農夫のことを不思議に思いました。急に金持ちになったのですから、無理もありません。村人の中には妬んで、この農夫が泥棒をしたと言う人まで出てきました。そこで役人が、この農夫を調べだしました。その結果、お金の出所がはっきりしないため、この農夫を牢屋に入れてしまいました。
 空の上からこの様子をじっと見ていらした神様は、ほーっと深いため息をつかれると、この国の領主に姿を変えて、お役所に出向き、この農夫を牢から出すように命じました。
 農夫は牢から出されて、家に帰ると、前のようには贅沢をしなくなったのですが、お金が有ったため、畑を耕すのを止めてしまいました。そのため、やがて畑は全くの荒れ地に戻ってしまいました。何年かたって、お金を使い尽くした農夫は、荒れ地を元の畑に戻すことからしなければなりませんでした。それはとても、とても大変な仕事でした。
 この国にまた別の働き者の農夫が住んでいました。この農夫も朝から晩まで働き続けましたが、どうしても貧しさから抜け出すことが出来ませんでした。
 神様は空の上から、この農夫の働きぶりも見ていらっしゃいました。そしてこの農夫のことも大変可愛そうに思われました。そこである日、神様は乞食に姿を変えて、この農夫が畑を耕しているところにやってきました。
「旦那様。お願いでやす。ひもじくて死にそうでやす。何か恵んで下され。」
乞食は言いました。農夫は手を止めて乞食を見つめました。空腹らしくて、ふらふらしていました。この乞食を哀れに思った農夫は、持っていたお弁当を取り出して、おにぎりを一つ乞食に与えました。乞食はそのおにぎりをおいしそうに食べ終わると、何度も何度もこの農夫にお礼を言って、歩いていってしまいました。
 その夜のことでした。農夫が寝ようとしていたところ、入り口の戸をとんとんとたたく者がありました。農夫が戸を開けてみるとそこには神様が立っていました。
「私は今日助けてもらった乞食じゃ。お礼にお前の欲しい物を一つだけやろう。何か欲しい物を言いなさい。」
神様は言いました。農夫は何のことだか良く解りませんでした。普段からもっと良い鍬が有ればいいなとと思っていましたから、とっさに
「もっと丈夫で、深く掘れる鍬が欲しい」
と言いました。神様は
「本当に鍬でよいのか?お金の方が良いのじゃあないか?お金だと鍬も買えるぞ。」
と言いましたが、農夫は首を振って
「お金は使うと無くなる。鍬で畑を一生懸命耕せば、お金が無くても幸せに生きれます。」と言いました。神様は黙って鍬を一つ置いて夜の闇の中に消えていきました。
 翌朝からこの農夫は畑に出て、もらった鍬で畑を一生懸命耕しました。神様からもらった鍬ですと一回振り下ろすだけでいつもの何倍もの畑が耕せました。この農夫は広い畑一杯沢山の作物を作り、とても豊かな農夫になりました。
 
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