プヨプヨ攻撃    須藤 透留

 

 慎ちゃんは幼稚園に通う男の子です。慎ちゃんは家では、らっぱの壊れたのを持って、遊びました。そのらっぱは慎ちゃんが赤ちゃんの時、おじいちゃんがくれた物でした。そのらっぱは、もう壊れて音が出ません。ゴムの所を押したり、離したりすると、スコスコと言う音が出るだけです。その音はちっとも気になるような音ではなかったので、家族は慎ちゃんのするようにさせていました。慎ちゃんはそのらっぱを、大人や友達に向けてスコスコ鳴らし、

「プヨプヨ攻撃だ!」

と言って嬉しそうにしました。すると気のいい大人や友達は、慎ちゃんを捕まえようとして、慎ちゃんを追いかけました。それが慎ちゃんには楽しかったのでした。

 特に隆おじさんが来たときは大変でした。隆おじさんは上手に慎ちゃんと遊んでくれましたから、隆おじさんが来るなり、慎ちゃんはプヨプヨ攻撃を始めました。すると隆おじさんが慎ちゃんを追いかけました。慎ちゃんは家中をきゃあきゃあ言いながら、逃げ回りました。隆おじさんはわざと捕まえようとしますが、慎ちゃんは

「プヨプヨ攻撃だ」

と言って、隆おじさんに向かってらっぱをスコスコ鳴らしました。それに反応して、隆おじさんはわざと慎ちゃんを捕まえ損ねました。すると慎ちゃんはますますきゃあきゃあ言いながら、逃げ回りました。そしてついに慎ちゃんが捕まると、二人は取っ組み合になりました。慎ちゃんは必死で蹴飛ばしたり、たたいたりして、逃げだそうとしました。隆おじさんは捕まえた慎ちゃんをくすぐって、騒ぎを大きくしました。慎ちゃんはきゃあきゃあ言って、体をくねらして、逃げようとしました。適当なところで、隆おじさんは慎ちゃんを逃がしました。するとまた、慎ちゃんは隆おじさんにプヨプヨ攻撃をかけて、二人で追いかけ合い、じゃれあっていました。あまり二人がうるさく騒ぐと、お母さんが

「二人とも外でしなさい。」

と怒りました。怒られた大柄な隆おじさんが頭をかいて、体をすぼめて、慎ちゃんと手を取り合って、すこすこと、慎ちゃんの部屋へ行きました。しかし、しばらくするとまた、プヨプヨ攻撃で始まる、慎ちゃんと隆おじさんとの、追いかけっこが始まりました。

 ある日、慎ちゃんがしょぼんとして、元気がないのに、お母さんが気づきました。

「どうしたの、慎ちゃん。頭でも痛いの?」お母さんが尋ねても、慎ちゃんは頭を振ってうつむいているだけでした。その日、何度もお母さんが慎ちゃんに聞いたので、やっと慎ちゃんは、

「プヨプヨ攻撃がない。」

とらっぱがなくなったことを教えてくれました。お母さんは思わず、

「何で、そんなことで?」

と言ってしまいましたが、その後、慎ちゃんには、プヨプヨ攻撃をする事が、元気の源になっていることに気づきました。

 慎ちゃんの元気がいつまでたっても出ないので、ある日お父さんが、似たようならっぱを買ってきてくれました。慎ちゃんが持っていたらっぱとほとんど同じらっぱでした。ゴムの所を押したり離したりすると、プコプコ、プコプコと、とてもうるさい音がしました。お父さんお母さんは、慎ちゃんの元気のためなら、少しぐらいのうるさい音のには我慢ようと思っていました。しかし慎ちゃんは、新しく買って貰ったらっぱでは遊びませんでした。

 それから何日かたちました。お母さんが庭の物置で捜し物をしていると、慎ちゃんのプヨプヨ攻撃のらっぱが落ちているのに気づきました。

「慎ちゃん、慎ちゃん、おいで。ぷよぷよ攻撃、見つかったわよ。」

大声で慎ちゃんを呼びました。慎ちゃんは大急ぎで飛んで来ました。

「わー、プヨプヨ攻撃だ。プヨプヨ攻撃だ。」と慎ちゃんは大喜びでした。その時から、いつもの慎ちゃんの元気な、プヨプヨ攻撃が再開しました。

 

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