明日天気になあれ

 僕はてるてる坊主。先ほど淳子ちゃんとお母さんが作ってくれたばかりです。真っ白い頭と真っ白い体だけの人形です。これで顔つきが恐かったら、お化けと区別ができなかったでしょうが、お母さんが優しい目と鼻と口を描いてくれたので、僕は結構可愛いてるてる坊主でいることができました。僕の首をぐるぐる縛った糸でテラスの物干し竿にぶら下がっています。普通ならこれは首釣りの姿だけど、僕達てるてる坊主については、人間達はかえって可愛らしく感じるらしです。そうは言っても、四六時中首の所でぶら下がっている僕たちにとっては、見た目ほど楽なものでは有りません。

 今、雨がざあざあ降っています。明日は淳子ちゃんの遠足の日です。淳子ちゃんは明日の遠足をとても楽しみにしています。明日はどうしても晴れて欲しいのだそうです。そこで淳子ちゃんとお母さんが僕を作ったと言うわけですが、作られた僕はとても迷惑なのですよ。だってどの様にしたら明日の天気を晴れにできるのか、僕にも全く解らないのですから。そこで雨粒に聞いてみました。

「雨さん、明日までに止んでくれますか?」「空の雲の中には、まだたくさん、雨粒があるよ。きっと無理だろうなあ。」

と言って、地面に落ちてしまいました。

「よ、よしてくれよ。明日、雨だったら、僕の首ちょん切られちゃうんだぜ。」

僕は焦って、つい大声をあげてしまいました。それを聞いた雨粒達は

「そんなこと、僕たちの知ったことじゃあないよ。ぴちゃ、ぴちゃ、ざあ、ざあ」

と言って、地面に飛び降りて行きました。僕はどうしたら明日の天気を晴れにできるか考え続けていました。

 ちょうどその時、風が吹いてきました。僕は急いで風を引き留めると、尋ねてみました。

「ねえ、風さん、どうやったら、明日天気にできる?」

風は小首をひねって考えていましたが、

「空の高いところにいる、僕らの兄さんに頼んで、雲を吹き飛ばして貰うのが一番いいんじゃあないかなあ。」

「どうやって頼めばいいの?」

「誰か、行って頼めば。」

とそっけなく言って通りすぎようとしました。僕はあわてて風を捕まえようとしましたが、捕らえどころのない風は、するりとすり抜けて行ってしまいました。

 この様子を見ていたのは同じテラスの屋根の下で雨宿りをしていた蝶でした。蝶もきっと早く天気になって欲しかったのでしょう。大急ぎで風の後を追って、風を連れ戻してくれました。

「てるてる坊主さん、また風さんを連れてきたよ。」

「まだ何かようなのかい?僕は忙しいんだ。」

風は腹立たしそうに言いました。僕はとっさに、普通に頼んだのでは風は聞き入れてくれないだろうと思ったので、

「明日の淳子ちゃんの遠足のために、空の高いところにいる君の兄さんに頼んで欲しいんだよ。空の雲を吹き飛ばして、明日天気にして欲しいんだ。」

と頼んでみました。すると風は急に態度を変えて、

「淳子ちゃんの遠足のため?そりゃあ大変だ。明日は絶対に晴れの天気にしなくちゃあ、淳子ちゃんが可愛そう。任せておきな。」

と言って足早に去って行きました。

「これで安心、明日は晴れるわよ。」

蝶が嬉しそうに言いました。僕にはまだ少し不安な気持ちが有りました。

 「てるてる坊主さん、起きなさい。すごく良いお天気よ。絶好の遠足日和よ。」

という蝶の声で目がさめました。薄青い空に真っ赤な太陽が上り始めていました。

「本当だ、今日は本当によい天気だ。蝶さん、おはよう。晴れて良かったですね。」

私も晴れ晴れとして答えました。

「天気が良いと、私、たくさん仕事が有りますの。これから仕事に出かけますわ。またいつかお会いしましょう。」

と言って、蝶は飛んで行ってしまいました。僕は高い空を薄い雲がゆっくりと流れて行くのを見つめていました。

「風の兄さん達があの雲を押しながら走って入るんだなあ。」

僕は大きく深呼吸をしながら呟きました。

 一時間ぐらい経ったでしょうか。淳子ちゃんが大きなリュックサックを背負って現われました。

「てるてる坊主さん。天気にしてくれて有難う。これから行ってきます。」

と手を振って、部屋の中に消えました。僕も嬉しくなって

「行ってらっしゃい。良かったですね。」

と言って、手を振った積もりでしたが、良く考えてみたら、僕には手が無かったのですね。

 

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