登校拒否と心の傷

 

1・はじめに

 近年登校拒否、いじめられ、引きこもりの子供の数が増えていると言われています。最近では「パニック症候群」という概念も生まれています。新聞の記事やテレビ、ラジオでもこれらの問題を扱った番組が増えてきました。私の達診療所でも、特にこれらの問題を扱っていると公表している訳ではありませんが、登校拒否をしている子供や引きこもりの子供を診療する機会が増えてきています。

 子供が学校へ行き渋りだしたとき、最初に親がその子供をに連れて来るところは、私たち診療所です。連れてこられる子供達は皆大人しく、いい子です。その子供達が傷ついて、学校へ行けなくなっている事実に遭遇して、私は本気でこの問題を取り組むようになりました。社会的な常識を捨てて、医学的な常識を捨てて、心理学的な常識を捨てて、相手の子供の目線に合わせて、子供と語り合いを続けて、問題解決を試みています。現在、私は自分の診療所で登校拒否の子供の対応をするかたわら、地区の登校拒否を扱う会でもそれをサポートしています。その他、パソコン通信ネット上に登校拒否、いじめられ、引きこもりを考える会を作り、全国的にこれらの問題に対応しています。

2・恐怖の存在

 登校拒否は子供の心の病気と考えられてきていました。親の育て方が悪かったと言う人もいます。子供の自我の発達が悪いと言う人もいます。母子分離不全と言う人もいます。しかし、登校拒否の子供達と心を打ち明けあってつきあってみると、どの子供もそのようなところはありません。確かに一時的に、おなかを痛がったり、嘔気を訴えたり、親が学校へ連れて行こうとしたら、暴れたりする子供もいますが、良く語り合ってみたら、ごく普通の子供でした。そこで、そんな普通の子供なのに何故学校へ行けないのか、と言う問題を私なりに考えてみました。

 「登校拒否は単に子供と学校との相性の問題であり、多くの子供の中には、今の学校制度にあわない子供がいても当然である。」とか、「登校拒否は病気でないから、治療の必要はない。」と言う人たちもいます。私もこの意見に賛成です。しかし登校拒否を起こした子供達を観察していると、それでも不十分です。何かがあると、私は感じていました。そして押し隠された、学校に対する恐怖が、登校拒否を起こした多くの子供達の心の中に、そしてほぼ全ての子供の潜在意識の中にあることに気づきました。

3・恐怖の症状

 登校拒否を起こした子供の出す症状しては、頭痛、胸痛、肩こり、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、めまい、耳なり、呼吸困難、ふるえ、どもり、不安、いらつき、怒り、などが見られます。これらの症状の間には関連性は見つかりません。そこで自律神経失調症、や神経症の診断の元に投薬されている子供達が多いと言う事実があります。この事実からもわかるように、これらの症状は自律神経の反応症状と考えれば、すべての症状に関連性があることがわかります。

 登校拒否とこれらの自律神経の反応症状とは結びつきません。これらの症状と「学校へ行きたくない」と言う子供の訴えや行動との関連もつかめません。もちろん、子供達はこれらの症状のまねをしているわけではありません。その関連性をもたすものが、登校拒否を起こした子供の全てにみられる、意識範囲下(潜在意識)の抑圧された恐怖だと思います。私達は恐怖が非常に強いとき、恐怖を素直に表現できないとき、強い自律神経の反応症状を出すことを知っています。 それを図式で示すと次のようになります。

    恐怖の原因−−>恐怖(抑圧された)−−>自律神経の反応症状

 恐怖は脳全体に大きな影響を与えます。自律神経中枢にも大きな影響を与えて、前記のいろいろな症状を出させます。これで登校拒否の症状が自律神経の反応症状であることが説明できました。

 次に子供が抑圧された恐怖を心の中、特に潜在意識の中に持っていると言う事実から、その恐怖は学校で植え付けられたと考えられます。その恐怖の原因(例えば、教師の体罰、いじめ)と、学校と、恐怖とを結びつけるものは、と考えると、そこには条件反射の考え方が、当てはまると考えられます。

 学校内で恐怖の原因(例えば、教師の体罰、いじめ)により子供に恐怖が加えられますと、子供は恐怖を感じます。その恐怖は微々たる物でも、頻回に繰り返されると、大きな恐怖になって行きます。それとともに学校という場所や建物、概念が条件刺激となって行きます。そこで学校を見ただけで、考えただけで、恐怖を感じると言う条件反射が成立します。

◎学校が恐怖の条件刺激になる学習

恐怖の原因=恐怖の無条件刺激(学校での体罰、いじめ)−−>恐怖(無条件反射の反応)−−>自律神経の反応症状    この際に学校を恐怖を生じる条件刺激として学習する

 

◎学校が恐怖の条件反射(心の傷)

 学校及び学校の概念(無関刺激が条件刺激になている)−−>恐怖(抑圧された)−−>自律神経の反応症状(条件反射の反応)

 

このように考えれば、登校拒否の子供が出す自律神経の反応症状と登校拒否の関係が結びつきます。

 

4・心の傷

 元来子供にとって学校は楽しいところであり、恐ろしいところではありません。それが恐怖を呼び起こす条件反射により、学校が子供にとって恐ろしい場所となったとき、これを心の傷,子供の心の中にできた心の傷と言います。この心の傷は意識できない心、認識できない心、潜在意識の中にあります。そのために気づかれないことが多いのです。

5・学校が恐怖の条件反射

 学校が恐怖の条件刺激となる条件反射と登校拒否との関係に触れてみます。

1)条件反射は条件刺激が無くなると条件反応も終了します。

 これを登校拒否に当てはめてみますと、学校へいかなくても良くなった子供が元気に家の中で遊びだすのに相当しています。心の傷があってもうずいていないことを意味します。

2)条件反射は条件刺激を長く与えないと、条件反射の消失、つまり条件反射が成立しなくなります。

 これを登校拒否に当てはめてみますと、長期間子供に登校刺激をしないでおくと、登校拒否の問題が解決することを意味します。別の言い方をすれば、登校拒否の問題を解決するには時間がかかります。心の傷が治ることを意味します

3)条件刺激を続けていますといつまでも条件反応が起こります。

 これを登校拒否に当てはめてみますと、登校刺激をするといつまでたっても登校拒否の問題は解決しないことになります。そして、「登校拒否をしている子供を無理してでも学校に連れてきて、学校に馴れさせれば、学校に来れるようになる」と言われていますが、その効果はまったく逆で、子供の学校に対する恐怖を増強する結果となることが言えます。心の傷をいじくることになり、心の傷がうずき続けると共に、治ることも奇態できません。

4)無条件刺激と条件刺激を同時に繰り返し与えていると、条件反射は増強されます。

 これを登校拒否に当てはめてみますと、登校刺激をして無理やり子供を学校に連れて行くと、子供の状態が悪くなることを示しています。心の傷の悪化を意味します

5)条件刺激があって、条件反射が起こるときに、別に強い刺激を与えると、条件反射は一時的に成立しません。

 これを登校拒否に当てはめてみますと、登校拒否をしている子供が何か楽しいことに夢中になっていると、登校刺激をされても、自律神経の反応症状が出ないことがあります。心の傷に包帯をしたり、薬を投与したことに相当します。

6・まとめ

 登校拒否は学校が条件刺激となった、恐怖を生じる条件反射と言えます。

その条件反射の神経生理的な性質から、登校拒否の子供に対する対応方が結論で来ます。

 その第一は登校拒否の解決には時間がかかることを覚悟しなくてはならないこと。

 その第二は登校拒否をしている子供には登校刺激をしないこと、決して学校へは行かさないこと。

 その第三は登校拒否をしている子供が何か楽しいことに夢中になれば、登校拒否の問題の解決を促進することになります。

 

表紙へ