引きこもりとその対応との悪循環
 
 心が傷つけられた子供は、その心を癒すために、自分の家に、自分の部屋に引きこもる。すると親や周囲の大人は、引きこもりは子育ての失敗だ、引きこもりは子供の成長のために良くない、犯罪の原因となったり、精神疾患の原因となるとして、いろいろと子供に働きかける。そのため、子供は逆に自己否定に陥ったり、対人恐怖を生じたり、いろいろな神経症状、精神症状を出すことになる。それは親や周囲の大人に、早く引きこもりの解決をして、子供を社会へ引っぱり出そうとする原因になる。それを避けるために、子供は親や大人を避けて、より引きこもる事になる。子供と親との間で互いに悪循環に入ってしまう。この悪循環の際に、子供は引きこもることでやっと自分を維持しているのである。子の悪循環を子供の方から断ち切ることは出来ない。その能力もない。悪循環に陥れているのは親や周囲の大人である。親や周囲の大人がその対応を変えなければ、この悪循環を断ち切ることは出来ない。

 今までの親や周囲の大人の対応は、この悪循環を断ち切るために、引きこもる子供に社会との接点を持たせようとする者であった。多くの引きこもりに対応している相談機関ではこの様な対応が取られている。それでも引きこもりは増え続け、問題が難しくなっていることである。そこで一般には相談機関が足らない、解決に当たる専門家が不足しているという議論になっている。ところが、ほとんどの引きこもっている子供達は医者にもかかっているし、相談機関にも、専門家という人にもかかっている。それでもどうにもできない現実が有る。つまり相談機関や専門家と言われている人の元に子供を連れていっても、子供の方からそれを拒否するようになるのが現実である。決して公共機関の敷居が高いわけではない。親も隠そうとしているのではない。親としても、やるだけのことをやっている。医療機関に連れていっても、薬だけ投与されていて、いっこうに問題の解決が無いことである。特に専門家と言う人達の対応を拒否する子供達が多いのはなぜだろうか?

 その理由を考えてみる。この様な子供を社会へ引っぱり出そうとする対応は、相談機関の対応は、いわゆる専門家という人達の対応は、そして医療機関の対応は、子供の心を反映していないからである。なぜ反映していないかと言えば、それは引きこもっている子供達の心を知らないからである。嘘だと思ったら、引きこもりを克服した子供達の話を聞いて見ればよい。引きこもりをしている最中の子供達は自分を守るために、本当のことは言えないから、聞いても言わない。

 引きこもっている子供達は、好き勝手に引きこもっているわけではない。その子供それなりの理由が有って引きこもっている。その理由を理解しないで対応されたら、子供達は逆に苦しくなってくる。引きこもりの悪循環を作っているのは、子供達の心を理解しない大人の側にある。引きこもる子供達を理解しない親や相談機関、いわゆる専門家の対応に疲れ果てて、それを避けるためにも引きこもっている。つまり、大人が引きこもる子供達を理解すれば、子供達はいつまでも引きこもっている必要はないわけである。現実に時間はかかるが、多くの引きこもっていた子供達は引きこもりを止めて社会へ出てきている。

 では引きこもっている子供達は何を大人に求めているのであろうか?それは、その子供達には各自それぞれのその子供たちなりの引きこもる理由が有るので、それを信じて、何もしないで見守って欲しいと言うことである。解らない人達は何もしないで自分たちを信じて欲しいと言うことである。この子供達の訴えを理解することは、普通の、引きこもりの子供を持ったことのない大人達には難しいことである。そして子供達の訴えを実行することは、引きこもりの問題の解決に関して、確かに即効的な対応ではない。結果がいつ出せるかも明確ない。しかし、行動するのは子供達である。子供達の意志で動き出さなくては引きこもりの解決にはならない。このことを大人達が理解しなければ引きこもりの解決は無いのである。つまり、引きこもりを止めて社会へ出ていけるようにできるのは、親や周囲の大人ではなくて、引きこもっている子供達自身であることを、大人は気づかなければならない。それが引きこもりを解決する一番の近道である。

 引きこもりの解決に親や周囲の大人達が、訪問カウンセリングが効果的であろうと感じるのは、親や周囲の大人が引きこもりの子供達の心を知らないからである。本当にカウンセリングが必要なのは引きこもりの子供を持つ親の方なのである。親が引きこもっている子供をありのまま認められるように、カウンセリングを受けるべきなのである。引きこもりを解決するには、大人の側から子供達を見るのではなくて、引きこもっている子供達一人一人の心から、対応を考えなければならないのである。現在、引きこもっている子供の心を知ることが出来るのは、子供自身しかいないのである。
 

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